2020.2.29 正木ブログ
国連海洋法条約
私(正木)は学部時代,国際公法のゼミに所属しておりました(私の学部は学期ごとにゼミに所属できるので,出身ゼミが複数あり,そのうちの1つです)。
国際公法というのは基本的には国家と国家の間の利益調整について論じる学問で,「国家」という絶対的権力が存在する国内法とは異なる世界観がある法領域です。当時は国内法もよく分かっていないいち学生だったのですが,今あらためて教科書をパラパラとめくると「国際法は法か」などという哲学的にも思える議論が展開されていて興味深く思うのです。
さて,国際法が扱う領域は広いです。国家と国家の関係を規律するルールですから,宇宙条約や南極条約など,場所も様々です。そして,そのうちの1つに「海洋法」という分野があります。
海というのは様々な国が船を動かす場所です。「国が」と書きましたが,そもそも船に国籍がなければならない,というルール自体が自明のものではないので,考え出すときりがありません。
この船と国家の話が話題を集めたのが,ダイヤモンドプリンセス号やその他コロナウイルスとクルーズ船にまつわる問題です。
この問題については詳細を調べたわけではありませんが,クローズアップされたのが国連海洋法条約という条約です。この条約には,船舶の無害通航権という,極めて重要な権利が規定されています(17条)。船舶は,沿岸国の平和,秩序又は安全を害しない限り無害であるとされ,領海内を通航することができるのです。「通航」というと通過するだけに思えますが,実際には内水の外にある停泊地若しくは港湾施設に立ち寄ることも通航とされています(18条1項b)。
このように,船舶には内水の外にある港への立ち寄り権限があるのですが,一定の場合にそれが制限されることがあります。それが19条2項に列挙されている場面で,このうち(g)に「沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令に違反する物品、通貨又は人の積込み又は積卸し」と定められているのです。
今回,入港を拒絶するかしないか,というのはこの条約が問題になりました(内水の港であればそもそも無害通航権は問題になりません)。
国際公法それ自体はあまり日常業務で使うことはなく,司法試験の受験科目としても国際公法は人気が無いのですが,他方でこのような事件で蘊蓄を語るときには非常に重要な法領域なのでありました。
ちなみに,この写真は2016年の就航直後にサウサンプトンに寄港した大型クルーズ船,Harmony of the Seaです。