2020.3.6 正木ブログ
駐車場内の交通事故と過失割合
近時,といってももう5年以上が経っていてびっくりするのですが,東京地方裁判所交通部などが執筆している,民事交通事故訴訟における過失割合の基準本,いわゆる緑本が大幅に分厚くなりました。
分厚くなったからには色々と加筆されているわけですが,その中で非常に影響が大きいと感じるのが,駐車場内での事故についての過失割合の基準が示されたことです。
駐車場内はそもそもは道路交通法に言う「道路」にあたるか,つまり道路交通法が適用される場所なのかどうか,ということから問題になり,かつては一般道路での注意義務の考え方を援用して考えておりました。そして,過去の判例などを探りながら,過失についての主張をぶつけ合っていたのであります。
近時は自動車保険に弁護士費用特約が付帯することが増えたこともあり,駐車場内での物損事故で弁護士に依頼される方も増え,そのことも相まって駐車場内の事故の過失割合が問題になることが増えました(私が車社会である愛媛県にいたことも影響しているとは思います)。
特に頻出するのが,駐車区画から出ようとする車と,駐車場内の通路を通行している車との衝突事故です。この事故の基本過失が70対30(通路を通行している車の方が過失は小さい)と定められました(【335】図とよばれるもの)。
しかし,現実はなかなか基準が想定しているようにはいかず,通路で退出待ちをしていたら衝突したケースや,通路を斜めに進んでいたら衝突したケース,四つ角のコンビニエンスストアの駐車場を通ってショートカットしようとして事故になったケースなど,様々です。
多くの事故を取り扱う保険会社は,一般に基本となっている割合で話を進めようとするため,ここに「あんな運転をされたらよけられない」「駐車場内なのだからもっとスピードを緩めるべき」などと多くのトラブルが起きます。
もちろん,緑本自体も「具体的な事実関係に即して個別的に過失相殺率を検討すべき」としているのですが,なかなか対保険会社の交渉では交渉がまとまりません。
それなりの数の駐車場内の交通事故を扱いましたし,特に自分が取り扱った事故態様を統計に取ったわけではありませんが,物損事故の中では訴訟になりやすい・交渉が長期化しやすい類型の1つだというのが実感です。損害額が小さくとも,訴訟を恐れず粘り強くやるのが重要だと考えております。
ちなみに,この写真は自動車運搬船の中の写真です。運んでいるのは新車ですから,船が揺れても車が傷つかないよう,細心の注意をもって駐車・固定されています。自動車運搬船に搬入する車の運転手さんのテクニックにはびっくりさせられます。