2023.1.24 法律相談
セクハラか、それ以外か
最近、「上司からセクハラをされた」「セクハラされたうえ、写真をばらまかれてしまった」、あるいは「部下と恋愛関係にあったのだが、今になってセクハラだと言われている」などのご相談が相次いでいますので、まとめておきたいと思います。
まず、セクシャルハラスメントっていうのはなかなか面倒な問題です。
面倒な理由を3つにまとめました。
①ある行為がセクハラか、それ以外の何か(通常の恋愛行動?)該当するかどうかというのは、「(セクハラを)されている方の気持ち」次第
②「されている方の気持ち」というのは本人にしかわからない(しかもその気持ちを本人が相手に伝えないことがあるし、伝えていてもその内容が本当ではないことも多々ある)
③さらに上記の「されている方の気持ち」というのは、「されているときの記憶」に依存し、その記憶が状況に応じて変化しえる
たとえば、会社で、上司が部下に対して、「キスしていい?」と尋ね、部下が頷き、これを受けて上司が部下にがキスをしたとします。その時、部下が、キスされることを「望んで」または「求めて」いたのか、それとも、「仕方ない…」(求めてはいないが、まあ受け入れはする)という思いだったのか、あるいは、「いやだけど、逆らえない」という気持ちだったのかは本人しかわかりません。
また人間の記憶というのは「その時の気持ち」をそのまま、長時間維持できるものでもありません。変わっていって当然です。
このように、外部からはわかりにくく、判ったと思ってもそれが正しいとは限らず、しかもどんどん変わっていく、ひとの「気持ち」というものが、問題の核になるのがセクハラ問題なのです。ですので、セクハラ問題はかなり厄介です。双方の認識がどんどんずれていったりします。
なので、(セクハラを)した方は、「僕たちラブラブ、だからキスしただけ、彼女も当然求めていた」と考えていても、された方の記憶は変わってしまうかもしれません。
①そもそもその時から全然嬉しくない、むしろ嫌だったが、相手が上司だから拒否できなかった
②その時はまあそのつもりだったが、後日、その上司に注意されてむっとし、「そういえばあの時は本当に嫌だった」と記憶が変わった
もしかすると、③その時は嬉しかったし、キスを求めてもいたが、後日その上司を嫌いになり、「そういえばあの時も嫌だったんだ」
では、セクハラの訴えが部下から出たとします。キスをした事実自体は間違いない、さらに上司と部下の関係で、会社の中でのことである、部下の方は嫌だったと言っている、となれば、上司の方が、いや、いや、あの時は彼女も喜んでいたんですう、と立証する責任を負います(立証責任、といいます)しかし、「喜んでいた」ことを立証するってのは、かなり困難ですよね、内心のことなので。
では、どうしようもないのかというと、例えばキスをした後のラインのやりとりや、デートしたこと、手をつないでとった写真などで、「二人の関係は合意に基づく交際関係であり、キスはその一環であって、もちろん合意があった」ことを立証していくことになるわけです。
社内恋愛はよくあることです、それが上司と部下という関係の間でも、恋愛は十分にあり得ます。なので、「上司と部下の関係だから」すべてセクハラと認定されるわけではありません。
しかし、上司と部下との間というのは、そもそも微妙です。ですので、上司と部下で恋愛するとしても、せめてキスとか抱き合うなどの行為は、職場でしないでください。だいたい職場とはそもそもそのような場所ではありません。行為を行う場合には、もっと、しかるべき、妥当な場所が、世の中にたくさんあるわけです。にもかかわらず、職場でそういう行為をするとなると、それはもう、セクハラと言わても仕方ないです。それくらいの腹をくくっていただきたいものです。
それでも、どうしても、トラブルになってしまったら、弁護士に相談された方がいいですよ。当人同士でやると感情が入ってしまい、たいがい問題が燃え広がります。この類の問題は、冷静に事案を見られる、かつ、そこそこ経験のある、弁護士にゆだねたほうが、皆さんもお楽でしょうし、問題が早く解決するでしょう。