2022.9.15 法律相談
裁判官が和解を勧めるタイミングと、対処方法
裁判を起こす、というと、皆さん、相手が間違っていることを証明するんだ!白黒つけてやる!!と思いがちですが、実際には、裁判を起こしても判決までいかず、和解で終わることが、ほとんどです。
裁判官はよく、「本件は事案の性質上、和解に適していますから…」などといいますが、ぶっちゃけ事案の性質云々なんか関係なく、ほとんどの事件でそういいます。裁判所は、心底、和解が好きなのです。
なぜか。それは第一に、判決文を書くのが、大変だからです。やっぱり、判決を書く以上、だれからも「おい、そんなこと言ってないぞ」とか、「おい、そんな証拠ないぞ」などと突っ込みを入れられないように慎重に書かなくてはいけません。それは確かに、しんどいでしょう。
第二に、判決で白黒つけてしまうと、「黒!」とされた方が納得せず、その判決を不服として、控訴する可能性があります。彼ら裁判官は、自分の言い渡した判決に不服申し立てをされるのは、やはり嫌なようです。和解にすれば、和解には不服申し立てはできません。控訴されるリスクがないため、彼らとしても、和解の方が安心、となるようです。
では、裁判官はどのタイミングで、和解しなさい、と言い出すでしょうか。
これは私の感覚でしかありませんが、だいたい、3割くらいの裁判官は、第一回期日の段階ですでに、和解しませんか?と言い出します。裁判官が「あのお、お話し合いの余地は…」と言い出すときは、平たく言うと、和解しなさいよ。ということです。
でそこで、原告も被告も、まあ、この辺りで折り合えるんじゃない?という感触をもっていれば、二回目の期日で和解協議に入り、三回、四回目くらいであっさり和解が成立して終わりになることもある。これは別に悪いことではありません。紛争を抱えたまま生活するというのは、しんどいことです。少し妥協してでも紛争を解決するというのは、大人の知恵でもあります。
第一回期日で和解の話が出ず、または、出たとしても原告か被告かどちらかが拒否した場合、双方は、主張の交換を始めることになります。原告の訴状に、被告は反論する。今度は原告がその反論に反論する。被告がさらにその原告の反論に反論し…と、やりあうのを「主張を交換する」といいます。それが続くと、ある程度、事件の骨格が見えてくるわけです。そして、これ以上やりあってもあまり新しい主張が出てこないな、大体双方、言うべきことは言いつくしたな、という段階に辿り着きます。ここまでに通常、半年以上は時間がかかるわけです。
で、この段階に至ると裁判所は、「そろそろ主張が尽きたころかと思いますので、お話し合いの余地を探りたいのですが…」と言い出します。私の経験では、だいたい9割くらいの裁判官がこういいます。
この段階ではまだ、双方の尋問は行われていません。なので裁判官は、「尋問前の心証ですが」と切り出して、「判決になったら大体これくらいになりますよ。だからこれくらいで和解しなさいよ。その方が早く終わっていいでしょ」と言い出すわけです。
ただ、まだ尋問が終わっていない段階ですから、当然、尋問の結果、裁判所の心証も変わる可能性があるわけです。なので、そこに賭けられるのであれば、まあ、この段階の和解案は、蹴ってもいいところです。
気を付けておきたいのは、①裁判官は自分が出した和解案を蹴られることは、残念に思う。②裁判官は、できれば尋問はしたくない。と思っている点です。なので、裁判所が強く勧める和解案を蹴ると、なんとなく印象が悪くなる可能性は大です。なので、この段階の和解案は、蹴ってもいいのですが、よく考えて、もしも受けても大した害がないのであれば、和解したほうが、いいかもしれません。
そして、双方主張が尽きた段階での和解も成立しなければ、裁判所はいよいよ「尋問」をすることになります。そして、8割くらいの裁判官が「尋問を踏まえた心証を開示するので、お話し合いの余地を探りたい」と言い出します。
この段階の和解案は、限りなく、判決に近いです。なので、よほどのことがない限り受けることをお勧めします。いくら判決に近いと言っても、判決そのものではないので、例えば支払いを分割にするとか、あるいは謝罪文言を容れさせるとか、より柔軟な解決ができるからです。
最後に。それでも裁判所の和解案を断りたいときって、あると思います。その時には、なるべく裁判所を怒らせないように断って下さい。なんと言っても判決を書くのは彼らです。その彼らを怒らせていいことは何もありません。
私は、よほどのことがない限りこの段階での和解案は断りませんが、断る場合には、今まで審理してくれた裁判官に感謝を表明し、また、いろいろ和解案を考えてくれたことに感謝を表明し、「しかしながら、裁判官、大変恐縮なのですが、やはり気持ちの面でどうしても納得のいかない点がございます。ですので、お言葉ではございますが、やはり判決にしていただきたく、云々」と頭を下げます。
最初から裁判官に対して「あなた、尋問聴いてたの?こんな和解案おかしいでしょ。飲めるわけないじゃん。あほじゃないの?」みたいなノリで突っかかることはお勧めしません。そうしたくなる気持ちは分かります。しかし裁判官もふつうのひとです。むっとしたら、報復的な判決を書く可能性は十分にあります。
裁判は、単に喧嘩を売るというものではないのです。色々な人がいろいろな立場で関与しています。なので、決して自己の正しさに固執せず、裁判所や相手の考えにもよく耳を傾けてください。
もちろん、あなたの弁護士が言うことにも、です。そうやって、長期的に見て、より良い解決を得ていただけることを、祈ります。