2023.5.9 法律相談
「尋問」に臨まれる際に気を付けていただきたいこと
「尋問」というと、皆さん多くの場合、「証人尋問」を想定されます。しかし、離婚など家事事件や、交通事故など民事事件で行われる尋問の多くは、正確には「本人質問」と言われるものです。
刑事事件は別として、民事や家事の裁判で、法廷に、原告ご本人でも、被告ご本人でもない、まったくの第三者(たとえば、目撃者などですね)が出廷して証言する、本当の「証人尋問」が行われるのは、結構稀です。私でも、年に1度もあるかないかくらいです。まあ、ご本人が会社さんのときは、その従業員さんが「証人」として出廷されることはありますが、この場合には完全な第三者とは言えないので、証人尋問とはいえ、実質は、本人質問に近いものにはなります。
さて、本人質問と証人尋問で何が違うのか、というと、まあ、ぶっちゃけ大して違いはありません。細かい条文上の規則や手続きが少しずつ違いますが、やることは、どちらも同じです。なので、以下では尋問も質問も、まとめて「尋問」と言わせていただきます。
本人だろうが証人だろうが、法廷に出てきて証言台の前に立つ、というのはなかなか緊張することです。まずいこと、言っちゃうんじゃないか、とか、ご心配になる方も多いですよね。
そこで、ここでは、尋問についてご説明しようと思います。
尋問は、主尋問(証人/本人の味方の弁護士がする質問)と、反対尋問(敵側の弁護士がする質問)、そして裁判官が聴く補充質問、という三つで構成されます。補充尋問は、無い時もあります。
主尋問は、味方同士の質疑応答ですから、事前にちゃんと準備できます。きちんとした先生なら、尋問前には「尋問事項書」などを作り、当日こういうことを聞きますよ、というのをあらかじめ教えてくれるはずです。
ですが、敵側の弁護士から何を聞かれるか、というのは、予想はできますが、はっきりとは分かりません。きちんとした先生なら「こういうことを聞かれるんじゃないかと思いますよ」というのを、これまた予め、教えてくれるでしょう。
で、いざ、証言台の前に立った時、何に気を付ければいいのか、という点ですが、
これは、弁護士にとって、「手持ち時間内に、いかに得点を入れられるか」というゲームだと思ってください。ゲームという表現は不謹慎ですが、そうお考えいただければわかりやすいかと思います。
尋問には、制限時間というものがあり、尋問者(弁護士)はこれを超えることはできません。限られた時間の中で、「有利な証言」をきちんと引き出し、裁判所に印象付ける必要があります。
なので弁護士から見ますと、自分のお客さんを尋問するとき、つまり主尋問のときには、「端的に」「てきぱきと」尋問を進め、こちらの主張を裏付けるお答えを、はっきりと、自信ある態度で述べていただきたいのです。
ま、法律家でもない皆さんが、産まれて初めて立つ証言台で、「はっきりと」「自信のある態度で」受け答えできるかというと、難しいですよね。なので、多くの先生は、尋問前には打ち合わせをして、お客さんが自信をもって答えられるようにしていると思います。こうやって弁護士は、自分にとって「得点」となる答えを積み重ねていきたいのです。
主尋問が終わると、次は、自分のお客さんが「相手の弁護士に」尋問される場面が来ます。これは、逆に、敵の弁護士が、自分のお客さんから失言を引き出して、「敵側の」ポイントを稼ごうとする局面です。
なので、弁護士としては自分のお客さんを護り、敵の弁護士の誘導尋問や誤導尋問に引っかかって、相手にポイントを稼がれてしまう前に、回答を阻止しなくてはいけません。これが「異議」です。バスケットボールを想像してください。敵のチームがシュートを決めようとしたら、味方チームは全力で、ボールがバスケットに入る前に止めようとしますよね。それと同じです。
なので、実は、お客さんである原告/被告ご本人が心配される必要はあまりないんです。なんかまずいことを言いそうになったら、あなたの弁護士が「異議があります!」と言ってくれます。ちなみに私は「異議!」とは言いません。ゆっくり、「裁判長、異議がございます」と言って、立ち上がります。なぜゆっくりいうかというと、それによって、敵の弁護士の尋問時間を潰すためです。いちいち異議を出して、30秒ずつでも相手の時間を潰していけば、チリも積もれば山になって、5分くらいは相手の手持ち時間を潰せるからです。それはつまり、相手がシュートを決める機会をきちんと奪っていく、ということでもあります。
なので、心配しないでいいのですが、ただ、弁護士として、ご本人に、あらかじめ注意しておいてほしいこともあります。
第一は、覚えていないことはきちんと「記憶にありません」と言ってほしいのです。一生懸命「うーん、ああだったかなあ、いやこうだったかも…ごにょごにょ…」と考える必要はありません。むしろそれをしてしまうと裁判所は「なんだ、この証人、結局記憶はあいまいなのね。じゃあ、言ってること、信用できないわね」と思ってしまいます。
一生懸命思い出さないでください。その場でスパッと答えられないなら、スパッと「記憶にないです。」「わかりません」でいいのです。
第二は、質問の趣旨をよく確認してから回答していただきたい。質問内容がどういうことかわからないまま、答えてしますと、たいがいとんちんかんな回答になり、「この証人は種子不明なことばかり言う、信用できない証人だ」という印象を与えてしまいます。質問の意味が分からなければ、素直にそう言って、何を聞かれているのか、何を答えるべきか、確認してください。
第三は、喧嘩腰にならないでいただきたい、ということです。
特に反対尋問では、こちらの気分を害するようなことを聞かれることもあります。そういう時に、かっかとしたり、むっとしたりすると、たいてい余計なことをいうものです。また逆に、そうなることを狙って、敢えて、挑発的な態度をとってくる弁護士もいます。なので、そこで怒ってしまっては、相手の思うつぼなのです。
相手の態度がよろしくないときには、たいてい、ご自身の弁護士が、「挑発的な質問である、撤回していただきたい」などと、講義してくれます。なので、ご本人は、少しむっとしたり、いやな顔をされても、どうかおちつかれていただきたい。
この三つさえ守れば、別に、尋問は怖いものではありません。リラックスしてください。そして、尋問の前は、しっかりカツ丼でも食べてください。緊張して何も食べれないようではいけません。人生で何回もあるかないか、という経験でしょうから、楽しむくらいのお気持ちでいらしてください。