2023.1.10 離婚問題
配偶者に怯え続ける生活を送る方のために
もう長いこと、その離婚案件にお付き合いさせていただいている女性がいます。
彼女(当時専業主婦)に子どもがおり、夫(国内有数の大手企業の取締役であり、社会的地位は高い)は不貞をしています。彼女はそれを知っても別れたくない、結婚は続けたい、子どもの学校のことなどを考えて、別居もしたくないというのです。
彼女は夫から生活費を貰っていなかったので、婚姻費用調停をおこすことになりました。しかし、そんな同居生活は辛いものです。彼女が焦燥していくのを私は見ていられず、何度も別居を勧め、とうとう、彼女は別居する決意を固めました。ところが、それを伝えても夫は、「冗談はいい加減やめろ」「そんなゲームをいつまでするつもりなの?気が狂っている」などと言いつづけ、全く本気にしませんでした。
別居当日が近づくにつれて、彼女は、夫が怖い、怖いんです、と言い始め、どうか引越しの時に私に弁護士として、立ち会ってくれというのです。普段、弁護士が引越しに立ち会うことはありません。また私もその時は、彼女がなぜそんなに怯えているのかよくわかりませんでした。しかし彼女があまりにも怖がるので当日、珍しく引越しに立ち会うことにしたのです。
その日私は、初めて彼女の夫と対面しました。夫は激怒していました。彼は、妻が本気で別居する、つまり自分に反抗して意思を通すことができるとは全く思っていなかったのです。つまり、妻のことを完全に舐め切っていたのです。その、甘く見ていた、たかが専業主婦が自分に反抗する。それが彼にとって耐えがたいことだったのです。
その日の彼の態度を見て、私はようやく、なぜ彼女があれだけ夫に怯えていたのか理解しました。夫の自信満々な、「所詮女が」「所詮専業主婦、なにもできないやつのくせに」という意識をむき出しにした、傲岸不遜な態度。相手を馬鹿にしきり、何か言えば高笑い、反論されると激怒して顔をこちらの顔の1センチすれすれまでに近づけて怒鳴り散らす態度。いわゆるモラハラというやつです。
私は自分の職務の正しさに自信がありましたから、全く相手のことは怖くなく、どれだけ怒鳴られようが高笑いされようが痛くもかゆくもありません。しかし、奥さんである彼女は毎日、夫にこのような態度を取られ、どれだけこれに痛めつけられ、自信を失ってきたことでしょう。そしてどれだけの勇気を振り絞って、別居を決めたことでしょう。
この日私はようやく、クライアントである彼女の異常なまでの自信の無さや怯え、何度も何度も弁護士に確認しないと安心できない性格の原因を理解しました。別居後、彼女は就職し、懸命に働きながら、そして子供を育てながら離婚訴訟を戦っています。相手は専業主婦ごときに一銭も払う必要はない、という態度ですから困難な訴訟です。
その彼女が、先日、今の気持ちをしたためたメールをくれました。そこにはこう書いてありました。「自分の足で、再出発地点に立ちたいのです」「自分で、困難な道を選びました。でも、悔いはありません」それを読んで私は、思わず涙が出そうになりました。
辛かったでしょう。いまも辛いでしょう。でも、彼女は夫に怯え、バカにされながら生きるのではなく、自分の足で立ち、歩いていくことを選んだのです。それを選択することができ、それを実行できた時点で、ある意味彼女は、モラルハラスメント夫に、勝利したともいえるのではないかと思っています。
夫は裁判への不出頭や、書面の不提出を繰り返し、またその主張も毎回毎回変化させていて、まっとうな訴訟進行とは程遠く、これからも困難が予想されます。それでも、私は彼女の勇気を応援すべく、全力を尽くそうと思うのです。
そして、配偶者に怯える生活を送っておられる方は、他にもたくさんいることでしょう。いちど、勇気を出してみませんか。あなたの手で、あなたの未来を選んでみませんか。それは困難な道でしょう。それでも、悔いのない人生へと、続く道なのかもしれません。